『デンマークに学ぶこれからのデザイン』セミナーレポート

2019年12月10日に開催された、デンマークのブランディングエージェンシー・KontrapunktのBo Linnemannさん、Philip Linnemannさん、濱口屋 有恵さん(当日は通訳)をお招きしたCCDLab.特別セミナー『デンマークに学ぶこれからのデザイン』。

デンマークで多くの官公庁のブランディングも行うなど、自国の生活に深く関わっているKontrapunktのお二人に、これからのデザインについてお話しいただきました。

*なぜ「デンマーク」に学ぶのか。「Co-Creation Digital Lab.設立への想い」をご覧ください。

「見たものは読んだものより覚えている」 タイポグラフィにブランドのストーリーを込める

Kontrapunktがブランド・アイデンティティを作るときに最も大切にしていることが「タイポグラフィ」です。

文字のひとつひとつを彫刻のように見立て、カーブや角度にまで気を配りながらタイポグラフィをデザインしていきます。

「見たものは読んだものより覚えている」、この言葉を普段から繰り返し口にしているのには、「タイポグラフィが持つ特徴によって、ブランドのストーリーを伝えることができると信じているから」とBoさんは語ります。

タイポグラフィの専門家のBoさんですが、元々は建築家として卒業しています。建築は技術系として扱われることが多い中、デンマークにおいては芸術系に分類されるため、建築はもちろんのこと、プロダクトなどについても学ぶ必要があったそうです。

様々な分野のデザインに触れながらタイポグラフィを学んだことが、Kontrapunktでの仕事に繋がっていると言います。

クライアントのブランドをつくるとき、クライアントの課題やパーパス(目的)を設定し、その周りにビジュアル・アイデンティティを定めるのがKontrapunktの手法です。

例えば、ひとつのブランドのロゴ、Webサイト、建造物の担当がそれぞれ異なると、印象がちぐはぐしたブランドになってしまいがちですが、Kontrapunktにはそのすべてを担えるデザイナーがおり、ブランドに一貫性を持たせることができるといったように。

デザイン大国・デンマークができた訳

デンマークは、「北欧デザイン」という言葉に見られるように、優れたデザインを生み出す国としても有名です。

ではなぜ、デンマークがデザイン大国になったのか、その理由についてもお話しいただきました。

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  • “Simplifying & Humanizing” つまり「シンプルにしながら人間味を持たせる、豊かにする」というデザインアプローチの仕方をしている
  • クラフトマンシップ(職人の技)を大事にすることで、優れた家具が有名になった
  • N. F. S. Grundtvig(1783 – 1872)という牧師がパブリックスクールを設立し、教育を受けていなかった人にも開放したことで、国民全体の教育に対する意識を上げた
  • 1960年代に女性の社会進出が進む
  • “Flexicurity(フレキシキュリティ)” という言葉があり、様々なことをフレキシブルに変えることができる。例えば職場なら、勤務時間を上司と相談して変更するなど

フレキシキュリティ:フレキシビリティ(柔軟性)とセキュリティ(安全性)を合わせた、デンマークの政策を示す言葉

このような背景があって、「人のことを考えたデザイン」をつくることがデンマークの人々に根づいている。

加えて、デンマークでは昔のものや歴史を大切にする風習があり、過去のデザインをオマージュした建築やタイポグラフィを手がけるように心掛けている。

デザインによる「未来への伝え方」

Philipさんによる後半は、課題の多い現代において、どうやってデザインの力で解決していくのか、「未来への伝え方」についてテーマが変わります。

Kontrapunktのクライアントの中でも、以前は「利益の出るデザイン」が求められていたのに比べ、現在では利益だけでなく、「企業に勤める人、環境・地球」について話すことが増えてきているとのこと。

「産業革命以降、物資が豊かになり、多くの人が幸せになった反面、同時に不要なものも出てきた時代を経て、今重要な問題は、社会課題解決の波とテクノロジーの著しい成長の2つ」だとし、特に「テクノロジーの発展に伴い、情報量が増えることで自分たちの選択の範囲も広くなっている。その中で自らを幸せにしていく選択をしていかなければならない時代になっている」と続けました。

自らを幸せにする選択をするために、デザインでできることは?

デザインの力で未来に伝えるには?

Kontrapunktはこう考えます。

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  • 「一人で行くなら速いが、みんなで行けば遠くまで行ける」という言葉があるように、一人では世界は変えられないが、みんなでなら変えられるかもしれない
  • 世界を変える方法の一つが会社やブランドを変えること。会社やブランドを変えるには、なぜ変えるのかというコアになるパーパスが必要
  • 企業がパーパスを持っていれば、消費者と企業を繋ぐことができる
  • パーパスはマネジメントや日々の行動にも影響するため、大事な指針であり、誰にでも伝わる、分かりやすいものでなければならない
  • パーパス自体は、口にするだけではつまらない言葉になりがちなものなので、パーパスを支えるビジュアル・アイデンティティと経験を持って伝えることが大切
  • アイデンティティのすべてがパーパスに沿ってできているため、それらが一つになった時に、見た人がその企業のパーパスを受け取れるビジュアルになっていることが望ましい

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さらに、「パーパスを達成するためには、自分たちの行く道を分かっていることが重要。企業のマネジメント層が作っているゴールは分かりくいため、パーパスに沿ったブランディングをする上で、会社のゴールがビジュアルで社員にも見えたら、わかりやすくてより良いものになる。ブランド・アイデンティティを上手く行うことができれば、社内外のエンゲージメントすることも可能」とも。

変えるまでのプロセスに様々なレイヤーを巻き込めば、承認が下りやすい

メンバーズはKontrapunktとのワークショップを開き、2018年にビジュアル・アイデンティティを刷新しました。

Kontrapunktのワークショップは複数回行われ、それぞれの回ごとに経営層やデザイナーチームといった様々なレイヤーの社員を巻き込みながら、4つのフェーズ(Discover、Design Concept、Execution、Implementation)で進んでいきます。

すべてのフェーズのワークショップでの成果物が明確で、様々な社員を巻き込んでいくというプロセスだからこそ、最終的な承認が下りやすくなっているのだと説明がありました。

Kontrapunkt 世界を変える3つの考え方

最後に、このセミナーでKontrapunktが参加者に持ち帰ってもらいたいことが3つ、スクリーンに映し出されました。

  • Change starts with a clear purpose
    -目的を持って変化を始める
  • Design has the power to visualise a purpose for people to understand where we are going
    -デザインには、私たちがどこへ向かうのか、みんなにビジュアルでパーパスを伝える力がある
  • Change can not be done alone – think engagement first
    -変えるには一人では難しい、みんなをエンゲージすることから始めよう

編集後記

今回のセミナーは、社内外から約100名が参加した、CCDLab.史上最大規模での開催になりました。一人でも多くの人へ届けるために、リアル受講に加え、ライブ配信の実施にあたり、株式会社Schooにご協力いただいた新しい取り組みでもありました。

「デザイン」は、グラフィックやUI、プロダクトなど狭義に捉えられがちですが、広義には仕組みづくりや設計をも含みます。Kontrapunkt、そしてデンマークに根付く「人のことを考えるデザイン」が、これからの組織や社会で広く実践されるべきなのではないかと感じました。

Kontrapunktとは

コペンハーゲン、東京に拠点を置く。デンマークのブランディングエージェンシーとして最長の35年の歴史がある。

この記事を書いた人

松岡藍

松岡藍

2016年、メンバーズに新卒入社。 大手企業のサイトディレクション、SNS運用などを経て、CCDLab.メディア編集長に就任。

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