Webアクセシビリティへの誘い

仕事の中の「アクセシビリティ」

「お金があればね~。」 「仕方がないね~。」

「Windows95」という、世界を大きく変えたPCのOSが発売される少し前、私は「ホームページ」という言葉と一緒に、Web制作の業界に足を踏み入れた。それからかれこれ30年近く、「Webサイトをつくる」(最近はつくるお仕事よりも、デジタルマーケティングとかDXとか、そっち寄りの仕事が多くなってきたが、それはさておき)仕事に携わってきたのだが、「アクセシビリティ」に配慮したWebサイトであるために必要なデザインや実装を手掛けようとした際に、上の台詞をこれまで何度聞かされたことか。

クライアントからはもちろん、制作チームからもよく言われた。もちろん仕事である以上、人が稼働する工数が余計に掛かれば「お金」が発生する訳だから、発注側も受注側も、「コストの妥当性」についてはしっかりと吟味しなければならない。しかし、メインビジュアルが入るはずの枠に画像が入らなかったり、入力フォームで次の画面に遷移するためのボタンがなかったりということは、(基本的には)あり得ない。では、「アクセシビリティ」は、なぜ「諦める対象」になるのか?

今の時代の「アクセシビリティ」

自意識過剰な繰り言はさておき、今を生きる私たちの時代に目を向けてみよう。

メンバーズが着目する社会課題である「気候変動」「人口減少」ともつながる言葉として、「サステナブル」や「多様性/ダイバーシティ」や「インクルーシブ」なんていうキーワードがよく聞かれるようになってきた。限りある資源を大事に有効に活用し、一人一人の違いを認め合い、さらに誰一人として取り残さないというスタンスは、徐々に確実に市民権を得つつある。こういう社会全体の大きな流れは、「アクセシビリティ」ともリンクしていると考えられる。

「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」という言葉は、一度は聞いたことがあると思う。社会生活に参加する上で、生活の支障となる物理的な障害や、精神的な障壁を取り除くための施策、もしくは具体的に障害を取り除いた事物および状態を指す用語で、「バリアフリー」というのは、例えば駅のホームに上がるための階段に、車いす用の階段昇降機を後付けで設置するようなことを指し、「ユニバーサルデザイン」というのは、最初から駅のホームに上がるためのエレベーターを設置するようなことを指す。最近よく見かける「だれでもトイレ」なんかもその例。原則に則り多くの人が「使える」ものを作ることで社会から排除される人々をなくそうとするデザインアプローチ。

最近耳にする「インクルーシブデザイン」も近しいアプローチなんだけど、排除されつつある個人のニーズや価値観を深く理解した上で、「使いたい」と思わせるものを作ることで社会に取り込もうとするデザインアプローチ、って言われている。ちょっと視点と大事にしているところが違うけど、どちらも大事な営みだと思う。

「アクセシビリティ」って自分と関係ある?

でもひょっとすると、「アクセシビリティ」とは、「障害を持つ方の話であって、自分とは関係がない」と考える人もいるかもしれない。でも実は、そんなに大げさなことを言わなくても、突き指をしたり、足を挫いたり、ほんの些細なことが起こっただけでも、これまで「当たり前」にできたことができなくなったり、不自由になったりすることはある。手を骨折してギブスで固定したり、松葉杖をついたりしたことがある人はよく分かると思うけど、いつも当たり前のようにやってる「スマホいじり」だって、全くうまくできない。

障害を持つ方というのは、そういう不自由な状況が、たまたま長期化、もしくは固定化されただけであって、そのこと以外、何一つ私と違っていない。なのに、ただそのことだけで、情報を手に入れたり、楽しんだりということが阻害されてしまうことが、実際に起こっている。明日からInstagramとかTikTokが見れなくなっても、残念じゃない?もちろん、私が楽しみたいのと同じように、障害を持つ方も楽しみたいと思うはず。そういうことって、みんな同じだよね、っていう話。「障害があるからかわいそう」じゃなくって、「障害があることを理由に、みんなができて然るべきはずのことが、できないこと(できない状態が強いられていること)がかわいそう」なんだと思う。もちろん、そんなことがあってはいけないよね。

「アクセシビリティ」って何するの?

そんな流れの中、日本で「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(略称:障害者差別解消法)」が制定されたのが2013年、施行されたのが2016年。2021年には、民間企業による障害者への「合理的配慮」を、努力義務から義務にする改正が行われた(施行時期は2024年6月24日までのどこか(未定))。

「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

これはすごく硬い言葉に聞こえるけど、もっと分かりやすい言葉で言うと、例えば、”自分の負担のない範囲で配慮すること”、”あなたが(サポートを必要とする)誰かの選択肢になる”(出典:「モビリティ企業のアクセシビリティ最新事情 〜サービス提供者が知らない、当事者目線の配慮とは?〜」(c)日本財団パラサポ)ということになる。

個人的には、この「自分の負担のない範囲で」って部分がすごく大事だと思っていて、「サステナブル」ともつながっていると思うんだけど、これを突き詰めると、実は最小限のコストで効果が最大化できるのが「アクセシブル」なWebサイトをつくることなんだと思うんだよね。「合理的配慮」を合理的に実施するためには、最初からポイントを押さえて作って、それを運用していけばいい、っていう話。

「Webアクセシビリティ」に取り組むべき理由

まずは、どこに基準を置くべきなのか、っていうところがスタート地点なんだと思う。「階段があるからいいじゃないか?」っていうのがこれまで。でも、誰だって必要があって、1人でホームに上がりたい訳だし、少なくとも、「誰でも必要な手段が得られる」ようにすることは、最低限必要なことなんじゃないか、っていうこと。だから、駅をつくるようにWebサイトを構築する私たちクリエイターは、「誰でも必要な手段が得られる」ようにつくらないといけないはず。

でも、最初に書いたように、「お金があればね~。」 「仕方がないね~。」という言葉を、これまで私も跳ね返せなかった。もし今度、Webサイトをリニューアルしてほしいってクライアントから頼まれたとしても(いや、そんな大掛かりなことじゃなく、「LPをを1枚つくって」って言われた方が難しいかも)、実際のお仕事の中で、十全にアクセシブルなサイトがつくれると、自信を持って宣言することはなかなか難しい。

なぜか?それは、クライアントの要件の中に、制作者の達成すべき品質の中に、「アクセシビリティ」が据えられておらず、必要な費用や工数が見込まれていなかったから。少なくとも、これまでは。

でも、企業の「合理的配慮」を、努力義務から義務にする改正は既に行われていて、あとは施行を待つだけの状況でもあり、諸々合理的に考えると、制作者は「アクセシブル」なWebサイトをつくるために必要なポイントを押さえたデザインと実装方法をノウハウとして持った上で、案件の仕様を握る最初の段階で、クライアントと認識を合わせた上で作業に着手する、というプロセスが踏めれば、「三方良し」の営みにしていくことはできるはず。きっとそれが一番、合理的。だから、みんなと力を合わせて、実現していきたい。

この記事を書いた人

細川英樹

細川英樹

2016年にメンバーズ入社。通信・インフラ、インテリア・住宅関連、薬品・食品業などのクライアント支援を行う。長年プロデューサーとして「つくる」ことに取り組んできたが、最近は企業のマーケティング高度化支援に従事。年齢の高度化に負けないよう、新しい領域の刺激を求め続けている。

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