支援事例から考える、地方金融企業のデジタル活用による地域経済発展への貢献と地方衰退の抑制

昨今、都市部への一極集中や少子高齢化などにより、地域社会の人口減少が加速しています。この課題解決に向けては、地域経済の担い手である地方中堅企業の成長・活躍が必須要件となる一方、首都圏を拠点とする大企業と比較すると、デジタル活用の遅れによって生産性が低いという現状があります。さらに、そうした経験・スキルを有するデジタル人材は、現在都市部においても不足していることから、地方での人材不足はより深刻となっています。

私の所属するメンバーズルーツカンパニーでは、これらの地方中堅企業のデジタル人材不足の解消と、生産性向上に向けた課題解決を目指し、地方のDX推進を支援させていただいております。
今回は、地方企業様のご支援を通して、デジタル運用の重要性、そしてその活動によるビジネス成果創出を可視化できた事例と、地域経済発展への貢献事例をご紹介させていただきます。

1. 地方企業共通のデジタル課題

(ア)デジタルでの目標の不在

昨今、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、DXやデジタルの活用に舵を切りたいものの、どこから手を付けていいのか分からず、なかなか改善が進まないというのは地方企業共通の課題のように感じます。多くの場合、デジタルでの明確な「目標」がないことが弊害となり、取り組みに対する良し悪しの判断ができずに、PDCAが回せていないケースが多いと感じています。
私たちが昨年来支援している某金融系企業のクライアントとのデジタル推進プロジェクトにおいても、最初に取り組んだことは、「目標設定」と「現状分析」でした。
まずは目標をシンプルにするために、多岐にわたる事業ドメインから最もデジタルと親和性が高く、ビジネスインパクトの高いものをKGIに設定。目標設定においては、過去のデータやリアルのデータ(月の推移など)、業界・業種の外部データなど参考にできるデータを集めて細かなKPIを策定し、月次/年間の目標をシミュレーションしました。本プロジェクトでは、デジタル専任の部署を新設し、デジタルに本腰を入れて取り組むこと自体が未知の領域へのチャレンジでしたので、それらに加えて「このくらいは獲りたい」「ベースを上げたい」という意志に基づいて、前年と比較して倍のデジタル成果目標を設定しました。
高い目標に対して、具体的な施策ロードマップを策定し、想定されるインパクトを積算していくことで、より現実的で達成可能な共通目標としての方向性を共有しました。

(イ)分析基盤の整理によるユーザー行動の可視化

昨年末に、30社以上の調査を通して見えてきた共通課題と改善策について、「地銀・有力企業など30社以上の調査から分かった! 地方・中堅企業のWebサイト課題と解決策」と題したセミナーを開催させていただきました。その中で、Webサイトの計測環境が不備なく整備されていた企業は33サイト中9サイトのみ。22サイトは何かしらの問題があり、うち2サイトは計測タグが設置されていない、もしくは明らかな計測不備があるという結果でした。
これらの例に漏れず2重計測やクロスドメイン未設定などを初期調査で検知していたため、次フェーズとして分析環境の整理を実施しました。ユーザー行動の可視化手法としては、Googleのデータポータルを活用し、策定した各KPIの数値をリアルタイムで進捗およびパフォーマンスが確認できるよう整備しました。
これにより、共通目標、共通数値を確認することができるようになったことで、お互いのコミュニケーションも円滑化されました。

(ウ)定量データから見えてきたボトルネックの改善

そうして整理した分析環境から見えてきた定量データをもとに、ボトルネックを洗い出しました。課題創出にあたっては、大きく流入・回遊・CVのアプローチで、それぞれの改修効果を算出して施策を立案しました。
同時に、現時点でのWebサイトの実力値から年間の着地シミュレーションを算出し、施策リストから想定施策インパクトを積算した、目標達成のためのロードマップを策定しました。

2. 成功体験の積み重ねで徐々にスケール

(ア)施策ごとの効果測定による成果の見える化

KGIに影響しない施策は、ロードマップのKPI計画に含まれていないことから、ひとつひとつの施策ごとに精緻な効果測定を実施しました。

メインバナーCTR:約4倍
目的導線への誘導率:約2倍
離脱率:約1割削減

上記効果は、実際に弊社が支援させていただく中で、トップページ3箇所を改修した際の効果になります。この手法では、最初の初期改修が最も効果が高くなる傾向にあります。それは、初期に発見されるボトルネックが最もインパクトが大きいことが多いからです。そして、その改善については導線をひとつ追加するだけ、バナーのサイズ・位置を変えるだけでもクリティカルな効果に繋がる可能性があります。重要なのは、ユーザー行動を理解したうえで、阻害するボトルネックを解消することです。分析基盤を整理しユーザー行動を可視化することで、ミクロの施策でクリティカルな成果に繋げることが可能になります。

(イ)勝ち筋の発見とブレークスルー

その後も、策定したKPIを定点観測することで見えるようになった様々な課題に対して、手広く施策をご支援させていただきました。初動は勝ち筋発見期として、各KPIに沿った施策を通して独自の勝ち筋(効果の高い施策)を見つけるフェーズ、その発見した勝ち筋に集中して、効果をブラッシュアップさせる施策集中期、最後に施策集中期にてブラッシュアップした施策を拡大し効果を最大化させる拡大・刈り取り期の3つのフェーズを設定して取り組みを推進しました。下記は弊社が取り組みをご支援させていただいた一例になります。

  • ページ改修
  • 新規ぺージ開発
  • 施策ごとの効果測定と詳細分析
  • データポータル開発
  • システム開発
  • SEO
  • オウンドメディア運用支援
  • メディアプラン策定
  • 広告運用
  • バナー開発
  • EFO

これらの幅広い取り組みを行う中で、弊社の中でも変化が起こりました。「フルスタックディレクター」という、今までにない新たな職種が定義されました。これは、中堅企業のデジタルマーケティング推進の実行役として、多能工スキルを有し、一通りの施策実行と成果向上の推進役となる職種なのですが、当案件の支援内容がローモデルとなり生まれた職種です。
こうした取り組みを続ける中で開発した施策のひとつが、目に見えて一定の成果を生み始めました。そこで施策集中期へ移行し、本格的に成果創出するために、次フェーズとして広告活用のご提案をさせていただきました。

(ウ)他部門、地方企業への波及

金融系のWeb広告市場は所謂レッドオーシャン化しており、広告未活用であった地方企業の付け入る隙はありませんでした。クリック単価も高騰しており、その単価で広告シミュレーションを算出したところで稟議が通らないことは明確でした。そこで、地元スポーツクラブとのタイアップキャンペーンを実施することで、新たなマーケットからの成果創出を模索しました。広告ターゲットのアプローチ変更、そして地元クラブとの連携による整合性の高い流入ユーザーの担保など、一般的な金融系アプローチ以外の方法を模索したことで、広告出稿の稟議も通り、結果としてキャンペーン期間中、通常期の50倍の成果を創出することができました。
この結果を踏まえて、デジタル活用の可能性が見えた(クライアント側の)他部門からの相談をいただいたり、グループ会社との共同施策などが先方の支援部署へリクエストされたりするようになりました。

3. デジタル成果前年比200%、今期はさらに200%の成長目標

(ア)1年間の取り組みで前年比200%のボトムアップを実現

個々の施策成果はもちろんですが、約1年間の取り組みの中で最も大きな成果としては、前年比200%の最終成果のボトムアップが図れたことです。これは、様々な施策を通してWebサイト自体のポテンシャルが向上し資産化したこと、そしてユーザー行動を定点的に観測する基盤が整ったことで、課題に対して打つべき施策が明確になったことが大きな要因であると考えます。
これまでの取り組みを横展開する形で、今期はさらにデジタル領域を増やして目標は前年比200%を掲げてご支援をさせていただいております。

(イ)ナレッジの蓄積による再現性の担保

重要なのはユーザー行動の見える化とボトルネックに対する施策立案、そしてその効果を正しく図る効果測定だと考えます。そして、それらのPDCAをスピーディーに回すことで、支援効果は高まり成果に繋がります。「何をしてどうなったか」というのは独自のナレッジであり、成功事例の再現性の担保、ひいては失敗を繰り返さないための教訓にもなり得ます。この施策量がWebサイトのポテンシャル、並びに企業のリテラシーに繋がるものではないかと考えます。

4. リテラシーの向上と内製化の体制が実現

(ア)協創によるスキルアップと内製体制の実現

目標の設定、施策への落とし込みから運用までのプロセスをすべて共有することで、デジタルに知見のなかった部署についても、期間を通してリテラシーの向上を図ることができました。プロジェクトを通して徐々に共通言語が増えていき、今ではGoogleアナリティクスでのユーザー行動の確認はもちろん、画像編集ソフトでのバナーの作成やHTML/CSSの編集など、デジタル人材として各スタッフが活躍されています。これにより、より具体的な施策ディスカッション、および施策立案時のスコープも柔軟に変動することができるようになり、予算に縛られない柔軟な内製化の体制が実現しています。

5. まとめ

私が所属するメンバーズルーツは、人口減少の課題を解決するためにできた社内カンパニーです。地方衰退の原因は、経済活動が東京などの大都市に集中していることです。地方経済の課題は、地方の労働生産性が低いことだと言われており、一方で、デジタルが活用できている企業は、生産性が高いというデータもあります。
私たちは、地方企業へのデジタル支援を通して生産性を高めることが、日本や社会のために必要なことだと考えています。幸いにも、本取り組みがフラッグシップモデルとなり、様々な地方企業のご支援に携わらせていただく機会が多くなりました。こうした取り組みを通して、地方企業でデジタルの活用促進、ひいては持続可能な社会を創ることに貢献できればと思っています。

この記事を書いた人

田中 秀和

田中 秀和

ベンチャー企業にてIT事業の新規立ち上げ、事業拡大に貢献。2008年にWeb事業にて独立し、12年に事業売却。その後、ブライダル業界にて事業・経営に対する戦略立案に従事。Webの知見をもとに業界課題を改善した実績が認められ、セミナーへの登壇や業界紙への寄稿を行う。2020年1月より株式会社メンバーズに入社。同年4月よりメンバーズルーツカンパニーに所属。

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